精神科医監修|心療内科・精神科における漢方薬
心療内科・精神科における漢方薬の使い方を解説
漢方薬ってどんな薬?
体質改善に漢方が良いと聞いたり、ドラッグストアや病院で漢方を取り扱っているという文言を見たり、私たちは日常のさまざまな場面で「漢方」という言葉を見聞きする機会があります。飲んだことがなくても「にがい」「即効性がない」などのイメージを持っている人は多いようです。
では、実際の漢方とはどのようなものなのでしょうか。
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そもそも漢方とは千年以上も前に中国から伝わり、日本において鍼灸や食養生も含めて発展してきた伝統医学のことを指します。漢方という言葉が定着したのは江戸時代後期頃で、長崎から入ってきたオランダ系医学を蘭方と呼ぶのに対して使われるようになったと言われています。
漢方では、体の組織に活力や生命力を与えるのは「気」「血」「水」であると考えます。
「気」は生きるためのエネルギー、「血」は血流、「水」は血液以外の体液を意味し、この3つが過不足なくスムーズに体内をめぐっていることが健康な状態であり、反対にこれらが乱れると病気であるというとらえ方です。
特に「気」は重視され、それらに関する症状の改善には西洋薬よりも漢方薬の方が良いという説もあります。
そして漢方薬とは、「生薬」を定められた量で2種類位上組み合わせた医薬品のことを言います。生薬とは、自然界に存在する植物の葉・茎・根、鉱物や動物の中で薬としての効果がある一部分を切る、乾燥させる、蒸すなどの加工を施してできるものです。
漢方薬は漢方医学の理論に基づいて安全性や知識を蓄積してきましたが、日本に伝わってからは気候や日本人の体質に合わせて長い年月をかけてさらに発展しました。
漢方薬による治療は、体の一部分だけをとらえるのではなく全体のバランスを総合的に見直して整え、生きる力を引き出すことを基本としています。
このように、細かくみていくと「漢方」と「漢方薬」は違うものを指していることが分かります。
漢方薬と西洋薬との違いは?
では、一般的に「薬」と呼ばれる西洋薬とはどのような違いがあるのでしょうか。
まずは治し方に対する考え方が違います。
漢方医学は体本来のもつはたらきを高め、体自身による力で正常な状態に戻そうとすることを目指します。前述した通り、局所的な症状だけに目を向けるのではなく、その人全体を総合的にとらえて心身のひずみを治そうという考えの下、治療を行います。
一方、西洋医学は全体をみるのではなく不調をきたしている症状に注目し、その部分のはたらきを薬によって補いながら治そうという考え方です。体を細分化し分析して治療することは得意ですが、さまざまな不調が出現した際、それらを同時に治すことは不得意です。
次に、薬の成分と効果が表れるまでの期間が違います。
漢方薬は複数の生薬を組み合わせてできたものなので、多成分であることが特長です。そのため、複数の症状に対して1種類の漢方薬で対処できる場合もあります。しかし、症状を抑えることではなく自然治癒力を高め体質を改善することが主な目的なので、服用を始めてから効果を実感するまでには時間がかかります。
それに対して西洋薬は自然界にはない物質を化学的に合成した成分でできたものであり、多くは単一成分です。単一成分の薬は、有効に作用するポイントが絞り込まれており、その症状を改善するための効果は強力で即効性があるというメリットがあります。しかし、症状1つに対して1種類の薬剤を投与するため、いくつもの症状や病気が重なっていると薬の種類も多くなりがちです。
また、副作用についても違いがあります。
よく「漢方薬には副作用がない」と聞くかもしれません。実際、天然素材から作られる漢方薬は長期間服用しても大きな副作用はないと言われていますが、生薬そのものにアレルギー反応を起こしたり、体質や症状に合わない漢方を取り入れたりすると副作用が出現する可能性があります。やはり薬である以上絶対に副作用が出ないということはないのです。
西洋薬の副作用についてはご存知の方も多いかもしれませんが、眠気、発疹、下痢、嘔吐などの症状が主です。服用後にそれらが強く出現した場合には以降の服用を中止し医師の指示を求めるよう注意喚起されていることもあり、初めての服用時や他の飲食物との組み合わせにも注意を要する場合があります。
【参考】
【精神科医監修】抗うつ薬を解説【目的効果・種類・副作用とは?】
どちらの薬にも良さがあり優劣をつけるようなものではありませんし、漢方薬と西洋薬は併用が可能なので、症状や治療法によっては両方を組み合わせることによって効果が高まる場合もあります。
いずれにしても気になる症状があり薬による改善を希望する場合には、医師に処方してもらったり、薬剤師に相談したりしてみるのが安心です。
漢方薬は効くの?
最初のイメージでも触れたように、漢方薬の効果が実感できるのは一般的に早くて2〜3日、数ヶ月単位で服用してやっとという人もいるほど即効性とは縁遠いものです。ですから、即効性を求めるのであれば西洋薬の方が合っていると言えるでしょう。
しかし、有名な葛根湯(かっこんとう)は風邪の引き始めに服用するとすぐに効果を実感できると言われている漢方薬ですし、数ヶ月後に効果を実感できる場合は、ちゃんと体質改善ができている証拠です。
冷え性や虚弱体質など元々の体質に由来する症状や、検査しても目立った問題が見つからない更年期特有の症状などに対しては漢方薬が有効だと言われるほか、原因が特定できずなんとなく不調を感じるときや心因性の症状は漢方薬の得意分野です。
食前や空腹時に服用すると薬効が吸収されやすいのですが、お茶や牛乳と一緒に飲むと効果が変化してしまうおそれがあるので水がぬるま湯で飲みましょう。
漢方薬は種類がたくさんありますので、始めに1つ試してみて改善につながらなかったとしても他の種類を試してみる価値はありそうです。
心療内科・精神科で処方される漢方薬
現在日本では医療機関での処方により保険適応になる漢方薬が148種類あります。
西洋薬と違い眠気や多剤服用の必要性が少ない、効果が強すぎない、依存性がないため薬の減量・中止がしやすいといったメリットが挙げられる一方、即効性がない、味やにおいが独特なので服用しづらいといったデメリットが挙げられます。
心療内科・精神科で処方されることが多い漢方薬の一例として、
・不安、緊張、イライラ、のどのつまり感などの症状やパニック障害の治療にも使用される半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
【ぞわぞわ…】精神科医監修パニック障害対策ブログ【そわそわ…】
・不安や気分の落ち込み、月経不順や更年期の症状に強い加味逍遙散(かみしょうようさん)
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・動悸、頭痛、身体的な問題よりも神経質などの理由で出現する不眠やめまいには柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
・昔からこころを落ち着かせ眠りをもたらす睡眠薬として使われている酸棗仁湯(さんそうにんとう)
【眠れない方必見!】睡眠のカギは朝にある!精神科医監修不眠解消メソッド
・食欲不振、疲労など消化器機能の低下には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
などがあります。
これらは本当に一例にすぎないので、もし通院中の医療機関があり漢方の服用に興味がある方は主治医の先生に相談してみることをお勧めします。
また、これからの受診を検討している方は、漢方薬を専門、または得意とする心療内科を訪ね、症状や他の薬との飲み合わせ、体質を考慮し、合う漢方薬を探してみるのも良いかもしれません。
【監修】本山 真(医療法人ラック理事長/株式会社サポートメンタルヘルス代表)
医師・精神保健指定医・日本医師会認定産業医