医師監修|アルコール依存症が及ぼす影響と治療法
アルコール依存症が及ぼす影響と治療法を精神科医師監修で解説
アルコール依存症とは長期間にわたってアルコールを飲み続けるうちに次第に飲酒のコントロールができなくなり,アルコールなしではいられなくなる精神疾患です。
アルコール依存の診断基準は,WHO(世界保健機関)が作成したICD-10(国際疾病分類第10版)にまとめられ,
- アルコールを摂取したいという強い欲望あるいは強迫感。
- アルコール使用の開始,終了,あるいは使用量に関して,そのアルコール摂取行動をコントロールすることが困難。
- アルコールを中止もしくは減量した際に離脱症状が出現する。あるいは離脱症状を軽減・回避するためにアルコールを使用する。
- それまで酔えていた酒量で酔えなくなった。
- 長時間の飲酒や,酔いから覚めるのに1日の大部分を消費してしまう。飲酒以外の娯楽を無視する。
- 心身に問題が生じているにもかかわらず飲酒を続けている。
以上の6項目のうち3項目が,過去1年間で生じていた場合にアルコール依存症と診断されます。アルコール依存症は精神疾患に分類されますが,アルコール依存症が及ぼす影響は”精神”に限らず多岐に渡ります。
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アルコール依存症が身体に及ぼす影響
長期間・多量の飲酒は身体の各所を傷つけていきます。「頭からつま先まで障害される」と言っても過言ではありません。
有名なところでは,
- メタボリックシンドローム,糖尿病,痛風などの生活習慣病。
- 心筋梗塞,心不全,脳梗塞等の循環器疾患。
- 脂肪肝,肝硬変,膵炎等の消化器疾患。
その他,アルコール性の認知症や筋肉系の障害を呈することがあります。
また,診断基準の1つでもある離脱症状と呼ばれる症状が起こります。これはアルコールが満ちた状態に体が慣れてしまい,アルコールが体内から無くなることで起こってしまう症状のことです。手の震え,発汗,頻脈,頭痛,吐き気や嘔吐,けいれん,不安,イライラ,幻視,幻聴,妄想,意識障害等の症状が起こり,場合によっては死にいたることもあります。
関連項目:精神科医監修【抗不安薬(安定剤)とは】作用・副作用・依存性
アルコール依存症が社会生活に及ぼす影響
アルコールによる問題は本人の心身だけにとどまらず,生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。仕事においては,酔った状態で出勤する,飲酒が原因の遅刻や欠勤,勤務中の隠れ飲み等のトラブルを招き,人間関係においてはアルコールの問題をめぐって関係が崩壊してしまう,共依存の関係に至ってしまうケースもあります。飲酒運転や酔いによる粗暴行為により,取り返しのつかない事態を招くこともあります。
仕事や人間関係だけではありません。飲酒をするにはアルコールを購入したり,飲食店を利用したりしなければなりませんが,いずれもお金が必要となります。アルコールのために人に偽ってお金を借りる,消費者金融等から借金をしてしまう,家などの財産を売ってしまう等々,通常であれば選択しないであろう手段を用いてまでアルコールの費用を工面しようとします。医療や行政等の関係機関に繋がったときに,アルコール依存症に伴う多額の借金が発覚するというケースも珍しくありません。
アルコール依存は社会的地位,人間関係,財産等の喪失を招き,その事実から目を背けるためにまたアルコールを飲んでしまうという悪循環が起こってしまいます。
アルコール依存症の心理
アルコール依存症は別名「否認の病」と呼ばれています。否認とは「受け入れられない現実や事実を認めないことによって,自分の心を守る」という無意識の心の仕組みのことを指します(ちなみにこの心の仕組みそのものを防衛機制と呼びます)。
誰しも多かれ少なかれ否認を用いているのですが,アルコール依存症者においては「自分は依存症じゃない」「いつでも酒はやめられる,コントロールできる」など,自身が病気であることを認められず,否認する傾向にあります。
その背景には「自分の問題や生きづらさを直視したくない」「依存症と思われるのが怖い,恥ずかしい」「飲酒をやめさせられるかもしれない」というような様々な思いがあり,それらが否認となって表に出てきているのです。
アルコール依存症の治療法
アルコール依存症が完治することはありませんが,回復することは可能です。ここでいう回復とは断酒を継続しながら社会・生活機能を取り戻していくことを指します。
飲酒しない生活習慣の獲得や,人間関係の構築と維持をしていく中で,自分の飲酒のきっかけを探り,「アルコールが自分に何をもたらしてくれていたのか」を考え,それに代わる行動を獲得していきます。
アルコール依存症は決して1人では対抗できません。アルコール依存症に対する明確な特効薬がない分,当事者同士のつながり,医療とのつながり,家族や社会とのつながりが,回復に向けて非常に重要な要素となります。
アルコールについてお悩みの方は,地域の精神保健福祉センター,保健所,医療機関に相談してみてください。
【監修】
本山 真(精神科医師 医療法人ラック理事長)
参考文献
Khantzian EJ & Albanese MJ (2008): Understanding addiction as self-medication: Finding hope behind the pain. Ranham, Rowman & Littlefield Publishers.(松本俊彦訳(2013):人はなぜ依存症になるのか―自己治療としてのアディクション― 第4刷 星和書店.)
横光健吾・入江智也・田中恒彦(2022).代替行動の臨床実践ガイド―「ついやってしまう」「やめられない」の<やり方>を変えるカウンセリング― 第5刷 北大路書房





